INTERVIEW「音楽家の対談」Vol.1
藤田崇文が世界的に活躍する音楽家に、そして仲間達にインタビューした語らいを掲載していきます。第一回 ネイ・ロサウロさん [Ney Rosauro](作曲家・マリンバ奏者)
ネイ・ロサウロ氏が来日
音の魅力に自分の身体が、その響きに吸い込まれる一瞬というものがある。 作曲家であり、マリンバ奏者のネイ・ロサウロ氏が日本へ来日し、そのコンサートが東京・国分寺市いずみホール(2007.9.4)で開催された。
打楽器アンサンブルの為の「日本序曲」[Japanese Overture] が冒頭に演奏され、ゆったりとした日本情緒あふれるサウンドは、大きな雲がゆっくりと動きだしかのように、会場の客席をそっくりそのままロサウロの音の世界へ運んでいったかのようだった。藤田 崇文
「祖国ブラジルを愛す」 ネイ・ロサウロ氏インタビュー
ネイ・ロサウロ氏/聞き手:藤田崇文
2007.9.4/東京・国分寺市いずみホールのリサイタル後にて
藤田:日本でのコンサートツアーお疲れ様でした。1997年ジャパン・パーカッション・フェスティヴァルでお招きしてから10年来の再会ですが、早いものですね。今回のコンサートのご感想をお願いします。
ロサウロ:今回のコンサート、レクチャー(神戸・名古屋・浜松・東京)を通し、日本の多くの方と語り合えたことを嬉しく思います。そして最終コンサートは東京へ来る事ができました。私の演奏を支えてくれた共演者、アンサンブル・メンバーにも2日間の練習でクオリティーの高い演奏ができました。コンサートを楽しみに足を運んでくださったご来場の皆様へ心を込めて演奏いたしました。 また今回私を招聘くださいました関係者の皆さん。ツアー中、楽器提供くださいましたヤマハ株式会社、パール株式会社のスタッフの皆様、コンサートを支援くださった多くの方々に心より感謝申し上げます。
藤田:冒頭に演奏された曲は、1997年日本打楽器協会委嘱作品 [Japanese Overture] でしたね。この曲は飛行機の隣に座ったブラジル人女性が、貧困家庭を経済的に支える為に故郷を離れ日本で労働をし、大きく変わった彼女の人生を思い、音楽作品にしたものですね。そのロサウロさんの気持ちがとても伝わっていました。
ロサウロ:ありがとうございます。 私はブラジル人です。祖国ブラジルを愛し、祖国の風土や人間、メロディー・リズムなど、ブラジルの素材を重要に考え作品に生かします。 ブラジル音楽の美しさ、そしてその音楽を聴いて幸せに感じる事がもっとも大切だと思っているからです。
藤田:同感です。私の作曲の師・伊福部昭先生もそうでした。「自己に忠実であれば、必然的に作曲家は民族的である事以外に、ありようがない。自らの民族の特殊性を踏まえずして、普遍的な芸術に到達することはできない」と主張され、欧州はひとつの半島にすぎず、この音楽のみを権威とみなすことに意義を唱えていました。
ロサウロ:大学では作曲を専攻していました。当時から前衛音楽が学科の主流でしたが、私は好みではありませんでした。24歳の時ドイツ Hochshule fur Music Wurzburg でフィンク教授に出会い、マリンバ・打楽器を勉強しはじめました。 私は作品を書く時、あまり難しいことは考えないようにします。パーソナリティーを常に大事にし、聞いてくださる人が楽しんでくれることを願い創作を続けています。そして先ほども触れましたが、ブラジルのロマンチックな情緒的で甘美なさまを感じて頂ければさらに嬉しいのです。
藤田:ロサウロさんはアメリカ・マイアミ大学で教鞭をとられていますね。常日頃学生さんに指導すること、そして日本の打楽器を学んでいる方たちへも一言メッセージをお願いします。
ロサウロ:打楽器は数多くの勉強をしなければなりません。ティンパニ、マリンバ、スネア・ドラムなど。それをまず一通りこなすことが必要です。そして、アンサンブルやオーケストラの中の打楽器は、ハーモニー、メロディーといった全体的構造を捕らえることも必要です。 クラシックならその作品・作曲家についての民族や歴史、時代背景などについて学ぶことも大切です。そうするともっと視野が広がり、音楽がさらに深く掘り下げられていくことでしょう。 日本の皆様、このたびはありがとうございました。 藤田さんとまた再会できる日を楽しみにしています。
藤田:こちらこそ!またお会いしましょう。
※2007.9.4/東京・国分寺市いずみホールコンサート後。
ネイ・ロサウロ プロフィール
Ney Rosauroは今日最も独創的且つダイナミックな打楽器奏者・作曲家として知られている。ブラジリア大学で作曲・指揮を学び、ドイツ Hochshule fur Music Wurzburgで打楽器と教育学を学び修士課程を修了。マイアミ大学では博士課程修了する。2000年よりマイアミ大学打楽器科部長を務め、作品は800団体以上のオーケストラ、アンサンブルで演奏され、楽譜出版物も多数ある。国際打楽器フェスティヴァルへの参加も35カ国を超え、世界の国々で活躍している。Ney Rosairo Official Website http://www.neyrosauro.com/