INTERVIEW「音楽家の対談」 Vol.2

藤田崇文が世界的に活躍する音楽家に、そして仲間達にインタビューした語らいを掲載していきます。

第二回 三木稔さん [Minoru Miki](作曲家)

作曲家・三木稔氏インタビュー

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日本現代音楽作品の中で、とりわけ打楽器作品にも力を注いできた、作曲家・三木稔さんにインタビューをしてきました。

代表作の ひとつでもある《マリンバ・スピリチュアル (1984)》は、欧米だけで数千回、殆どの打楽器グループがコンサートのトリに演奏し、800回も演奏暦があるというSafriDuo、アメリカン・バレエ・シアター(ABT)、BRUSTのショウ、ベルリンではCFに登場し、CDレーベルは100レーベルを超えるという。

昨年喜寿を迎え、今なお、お元気でオペラの作曲にも精力的に活動しているそんな三木さんの素顔に迫ってみました。

2008.jan. 藤田崇文


「三木稔」対談

藤田:今日は三木さんの色々な四方山話から、作品解釈に至るまで話をお聞かせ頂きたいと思います。 昨年2007年は喜寿を迎えられ、ますますお元気で、今なお、精力的にオペラの作曲、そして、11月は徳島での国民文化祭グランドフィナーレでフォークオペラ《幸せのパゴダ》と《ふるさと交響曲》(2007年11月4日)をダブル初演されたばかりですね。大盛況だったと伺っています。

三木:僕は四国・徳島生まれで、今回は徳島県知事からの依頼で、新作の委嘱、そしてグランドフィナーレの総合プロデューサーとして招かれました。規模が大きい為にかなり大変でしたが、僕を育んでくれた、地元徳島への感謝の思いと、地元の方達が何よりもこの国民文化祭を喜んでくださったことが嬉しいことでした。

藤田:三木さんの作品にも、この徳島の薫りを感じます。「阿波踊りのリズム」は強烈ですね。でも今や、三木作品の中であのリズムが出てこないと。というお客さんの期待感もあるのではないでしょうか。

三木:まだ記憶に新しい打楽器作品のひとつ《 Z 改造計画(2005)》でも8人の打楽器奏者たちが、「えーらいやっちゃ、えーらいやっちゃ。ヨーイ、ヨーイ、ヨーイ、ヨーイ」と声を発し、叩きながら作品に彩りを添え、後半は、最大にステージを盛り上げてくれます。この「Z」は本来<ざわめき>から来た「ぞめき」を、阿波踊りのリズム名として定着させようと僕が熱心に言ったので、徳島で一般語として主流を占めるようになりました。「ぞめき」育ての親かも知れませんね。
その他、この「Z」を用いた作品は《 Z 協奏曲(1992)》があります。《マリンバ・スピリチュアル》のデュオ版を編んで世界を駆け巡るSafriDuoを生かすため、デンマーク・ラジオの委嘱で作曲し、SafriDuoとデンマーク国立ラジオシンフォニーが世界初演しました。終わるや否や来場者総立ちの拍手が30分続き、前半に演奏された3人の現代作曲家形無しで、乗り込んだ形の私は、逆に批評からひどいことを書かれたそうです。

藤田:伊福部昭先生の同門でもありますが、そういえば叙勲祝いに弟子たち(芥川也寸志・黛敏郎・松村禎三、池野成、石井真木・・・)9人がゴジラのテーマを元に先生に贈った作品で、三木さんの《ゴジラは踊る(1988)》は大爆笑!でしたね。

三木:これは「ゴジラが四国に上陸したら!」と想定して作曲し、ゴジラをテーマに「ぞめきリズム」で腕を振るいました。 あれは、師のモティーフを用いることを前提に弟子達で取り組んだのですが、若手作曲家で、自分自身の作風が確定していない現状、特に伊福部作品の「そっくりさん」があまりに多いので敢えてやりました。マネをしても本家は超えられませんからね。
PASIC 2006では僕の「そっくりさん」に出会いました。"New and Unknown Marimba-Percussion Works of Minoru Miki"が開催されるためアメリカに行った時のこのでしたが、PASICの他のコンサートを聞いている中で、驚いたことに「ええっ?」とわが耳を何度か疑ったほど《マリンバ・スピリチュアル》の「そっくりさん」に出会ってびっくりしました。「一寸ひどいのではないか」と思いましたが、帰国直後に中国の作曲家から「あなたは、総ての作曲家が真似したくなる音を創造した」とメールを頂きました。
他の作品でも、若いときには「盗作ではないか」とそのたび腹が立ちましたが、これからは大いに喜ぶことにし、大人になる切っ掛けを得た、とてもいい旅だったと思うことにしています。

藤田:《マリンバ・スピリチュアル》は今や、CDレーベルだけでも100レーベルはあり、再演数は数えきれないほどではないでしょうか。CD題名タイトルでもいくつもあるぐらいですし、コンサートでもほとんどがラストに演奏されていますね。

三木:著作権報告から辿ると1万公演を超える再演と考えられます。 この作品は1983年末から84年にかけ、当時アジア・アフリカで進行中だった悲惨な飢餓を想い、前半はその犠牲者達への「魂鎮め(たましずめ)」後半は「魂振り」として秩父屋台囃子のリズムをもとに作曲しました。5oct,のマリンバソロと3人の打楽器(囃子方)がダイナミックな打音の世界を広げます。 マリンバソロの初演は大親友の安倍圭子さんです。私はいつも「アベちゃん」と呼んでいますが、この作品は《マリンバの時(1968)》同様に彼女からの依頼です。 両作ともできるだけトレモロで逃げないように書きました。スピリチュアルの打楽器は細かい指示をあまり書かず、木・金属・膜質(膜面)打楽器はそれぞれ、各プレイヤーのセンスに委ね、演奏者の考える余地を多くして、みんなで作品を作るのだとの意図も含んでいます。日本の打楽器はもちろん、膜面打楽器はティンバレス・コンガなどを使用したラテン打楽器で、《マリンバ・スピリチュアル》の「ラテン版」もメキシコやコスタリカのグループでやって面白かったです。

藤田:安倍圭子さんは日本の作品やマリンバ音楽を世界中に広めた功労者として、そして邦人作品の委嘱、初演も最多数ですが、三木さんの作品でもう一作、《マリンバとオーケストラの協奏曲 (1969)》も安倍さんの初演ですね。

三木:この作品は、最初のLP録音が日本フィル、そして東京フィル(第128回定演)で取り上げられ、二楽章形式になっています。その後、スラトキン指揮、セントルイス交響楽団など国際的レパートリーとなりましたが、オケが3管編成ですから大編成なのです。演奏時間約23分で、レンタル譜面ですから、なかなか一般的なプレイヤーの皆さんには演奏する機会が少ないかもしれませんが、この曲のピアノ・リダクション版を新たに作り、オスロの Norsk Musikforlag 出版社ではすでに販売を始めましたので、多く皆さん達に演奏して頂きたいと願っております。

藤田:最後になりますが、読者の皆さんへ三木さんからメッセージをお願いいたします。

三木:「人を感動させる」という気持ちを持ち続けることが我々音楽家には重要です。そして僕は常に「民族のアイデンティティー」を大切に考えています。西洋の技術にとどまることなく、日本人としての誇りや希望、音楽性・・・。もっと日本が世界に誇れるものがあると信じています。藤田さんにもプロデューサーとして参画して頂いていますが、『東西音楽交流の聖地』を掲げる、八ヶ岳「北杜国際音楽祭HIMF」は2008年夏(8/22~31)に第3回目を迎えます。私の長年の夢であつた「東と西」の音楽と文化の交流を目指す、21世紀の音楽シルクロードへ向けた構想です。八ヶ岳の地から世界へ向けて発信し、音楽の魅力をいっぱいに10日間、皆様へお届けしたいと思いますので、どうぞ八ヶ岳にお越し頂き、音楽を享受していきたいと願っております。

藤田:今日はありがとうございました。

三木稔プロフィール

徳島市生まれ。東京芸大作曲科卒。33年を要して完成したライフワーク、《春琴抄》《あだ》《じょうるり》《ワカヒメ》《静と義経》《隅田川+くさびら》《源氏物語》《愛怨》と続き、1500年の日本史各時代と精神に迫る「三木稔 日本史オペラ8連作」、Symphony for Two Worldsを含む《鳳凰三連》、《大地の記憶》など東西を結ぶ管弦楽曲、欧米で数千回演奏されている《マリンバ・スピリチュアル》や《弦楽四重奏曲》《東の弧》などの室内楽曲・独奏曲の多くは海外からの委嘱で作曲され、国際的なレパートリーになっている。《レクイエム》などの合唱曲、《花ものがたり》などの歌曲、《巨火》などの邦楽器作品多数。映画音楽は《愛のコリーダ》がよく知られている。

一方、日本音楽集団、三木オペラ舎(元 歌座)、結アンサンブル、オーケストラ アジア、オーラJ、アジア アンサンブル、八ヶ岳「北杜国際音楽祭」などを創立、各演奏団体・音楽祭への作曲・芸術監督やプロデュースで、かつてない創造活動を国際的に展開中。多数の楽譜・CD出版のほか、著書は「日本楽器法」「オペラ《源氏物語》ができるまで」「三木稔、新箏との道行き35年」。芸術祭大賞、芸術祭賞、ジロー・オペラ賞、徳島県文化賞、紫綬褒章、旭日小授章など受賞。四国大学客員教授。

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